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発達コラム

学校ではがんばれているのに、家では何もできないとき

こんなこと、ありませんか

「先生からは『学校ではがんばっていますよ』と言われるのに、帰ってくるとぐったりしている」

「ランドセルを置いたまま、ソファから動けない」

「宿題を始めるまでに何時間もかかる。声をかけると怒り出す」

「つい『学校ではできているんでしょう』と叱ってしまう」

小学3年生ごろになると、授業の内容も、友だちとの関係も、ぐっと複雑になります。冗談やその場の空気、言葉にされない決まりごとを読み取る場面が増えていきます。

その中で、状況がよく分からないまま、「なぜだろう」と思いながらも周りに合わせて一日を過ごしているお子さまがいます。外からは「問題なく過ごせている」ように見えるため、その大変さには気づかれにくいものです。

「カモフラージュ」という考え方

周りに合わせるために、自分の特性を隠したり、苦手なことを工夫で補ったりすることを、研究では「カモフラージュ(camouflaging)」と呼んでいます。主に、自閉スペクトラム症(ASD:人の気持ちや場の空気を読み取ることや、変化への対応に苦手さが出やすい特性)のある人を対象に研究が進んできました。

研究

自閉スペクトラム症のある大人92名を対象とした研究(Hull et al., 2017)では、参加者は、周りに合わせるために表情や視線を意識してつくったり、会話の話題を前もって準備したり、周りの人のふるまいをまねたりしていると語りました。その結果として、疲れ果ててしまうことが報告されています。

その後、同じ研究グループは、カモフラージュを測る質問紙をつくりました(Hull et al., 2019)。そこでは、カモフラージュが次の3つの面からとらえられています。

  • 苦手なことを、工夫や練習で補う(補償)
  • 自分の特性を隠す(マスキング)
  • 周りに溶け込もうとする(同化)

子どもの場面に置き換えると、たとえば、友だちの表情をまねて笑う、分からないままうなずいてやり過ごす、休み時間に輪の近くにいるようにする、といった姿が近いかもしれません。

注記

ここまでの研究は、大人を対象にしたものです。子どもについて調べた研究は、まだ多くありません。カモフラージュに関する29の研究をまとめた報告(Cook et al., 2021)でも、分かっていることはまだ限られていると述べられています。

子どもにも、同じことが起きているのか

数は少ないものの、子どもを対象にした研究もあります。

休み時間の観察から

研究

米国で、通常学級に通う小学生を対象に、休み時間の様子を観察した研究があります(Dean et al., 2017)。自閉スペクトラム症のある女の子は、友だちの近くにいて、遊びの輪に入ったり出たりすることで、困りごとが目立ちにくくなっていました。一方、男の子は一人で過ごすことが多く、困りごとに気づかれやすい傾向がありました。

英国の8〜14歳を対象にした研究(Wood-Downie et al., 2021)でも、自閉スペクトラム症のある女の子は、特性の強さは男の子と同じくらいなのに、人とのやりとりは上手にできているように評価されやすいことが示されています。その分、支援が遅れやすい可能性も指摘されています。

子ども本人の声から

研究

英国の8〜14歳の自閉スペクトラム症のある子ども136名に尋ねた調査(Mullally et al., 2026)では、45.1%が「自分の特性を隠している(マスキングしている)」と答えました。また、「自分らしくいてもいい」と感じる場所は、家庭では91%だったのに対し、友だちの前では40.2%、先生の前では26.8%にとどまりました。隠すことの代わりに、疲れや孤独を感じていると語る子どもも多くいました。

12〜15歳の女の子とその母親、先生に話を聞いた研究(Halsall et al., 2021)でも、通常学級で最もカモフラージュをしていたこと、「家では自分のままでいられる」と語られたことが報告されています。本人や母親からは、放課後の疲れやいらだちについても語られていました。

注記

子どもの研究は、どれも人数が少なく、英国や米国で行われたものです。日本の小学生を対象にした研究は、今のところ見当たりません。国内では、カモフラージュが心の健康に影響しうることを、これまでの研究から整理した報告があります(平岡・山根, 2025)。

また、女の子の研究が多いのは、女の子のほうが気づかれにくいためで、男の子がカモフラージュをしないという意味ではありません。

なお、子育ての場で「放課後に崩れる」といった言い方を聞くことがありますが、学術的に確立した用語ではありません。

大人の研究から、子どもについて考えられること

ここからは、大人の研究と、Junoが訪問の中で見てきたことをもとにした考察です。子どもについて研究で確かめられたことではない点を、ご理解いただいたうえでお読みください。

家での疲れは、学校で力を使い切ったあとかもしれません

大人の研究では、カモフラージュを続けた結果として、強い疲れが語られています。疲れ果てた状態について調べた研究(Raymaker et al., 2020)では、慢性的な疲れや、ふだんできていたことができなくなることが特徴として挙げられていました。

子どもでも、程度は違っても、同じ方向のことが起きている可能性があります。家でぐったりしているのは、なまけているのではなく、学校で力を使い切ったあとの姿なのかもしれません。

なぜ、そんなに疲れるのか

学校で周りに合わせて過ごすことには、いくつもの力が同時に使われていると考えられます。

  • 言葉や状況を理解する力:先生の指示や友だちの冗談を、分からないところを補いながら聞き取る
  • 周りに合わせる力:表情や話し方、その場の決まりごとを、一つひとつ意識して合わせる
  • 注意と切り替えの力:周りの様子を見続けながら、自分の動きを調整する
  • 気持ちを整える力:「なぜ?」という戸惑いや不安を、表に出さずにがまんする
  • 感覚の負担:教室のざわざわした音や、人の多さに耐える

どれか一つではなく、これらが重なることで、一日の終わりには余力が残っていない状態になりやすいと考えられます。

疲れていることに、本人も気づいていないことがある

もう一つ考えておきたいのが、自分の気持ちに気づくことや、それを言葉にすることの難しさです。研究では、自分の気持ちに気づきにくく、言葉にしにくい特性を「アレキシサイミア」と呼んでいます。

研究

15の研究をまとめた分析(Kinnaird et al., 2019)では、自閉スペクトラム症のある人の約半数(49.93%)にこの特性が見られ、自閉スペクトラム症のない人(4.89%)より多いことが示されました。ただし、対象は主に大人です。

8〜13歳の子どもを対象にした英国の研究(Griffin et al., 2016)では、自閉スペクトラム症のある子どもは、そうでない子どもより、気持ちに気づきにくく言葉にしにくい傾向が見られました。また、保護者はその難しさを子ども本人よりも強く感じており、本人の答えと保護者の答えは一致していませんでした。

子ども本人が「気持ちに気づきにくい」ことに、気づいていない場合があるということです。

このことを今回の場面に重ねると、学校で疲れや戸惑いがたまっていても、本人が「疲れた」「嫌だった」と気づけず、言葉にもできないまま一日を過ごしている可能性があります。本人も周りも気づかないうちに疲れが積み重なり、家に帰ったところで一気にあふれ出す。そのために、急に崩れたように見えるのかもしれません。

注記

気持ちに気づく難しさとカモフラージュや家での崩れを、直接結びつけて調べた子どもの研究は、今のところ見当たりません。ここは、研究と訪問の経験をもとにした考察です。

家で崩れるのは、家が安心できる場所だから

子どもの調査では、多くの子どもが、家庭を「自分らしくいてもいい場所」と感じていました。家でいらだったり、何もできなくなったりするのは、ようやく力を抜ける場所に帰ってきたからとも言えます。

そう考えると、家で叱られることが続くと、家も「がんばらなければいけない場所」になってしまいます。休める場所がなくなると、疲れはさらに積み重なりやすくなります。大人の研究でも、まわりに受け入れてもらうことや、休むこと、求められることを減らすことが、回復の助けになったと語られています(Raymaker et al., 2020)。

家庭でできること

ここで目指すのは、カモフラージュをやめさせることでも、もっと上手にさせることでもありません。学校でがんばった分を、家で回復できるようにすることです。

帰ってすぐは「回復の時間」にする

帰宅してすぐに宿題を求めるのではなく、30分から1時間ほど、何もしなくてよい時間をとってみてはどうでしょうか。おやつを食べる、横になる、好きなことをする、などで構いません。

疲れきった状態では、何から始めるかを決めたり、気持ちを切り替えたりする力が働きにくくなります。先に回復の時間をとることで、そのあとの取りかかりが少し楽になることがあります。

家の中の刺激を少なくする

帰宅後しばらくは、テレビの音を小さくする、質問を続けて投げかけない、といった配慮も助けになります。学校で使い続けた「感覚」と「注意」を休ませるためです。

「今日はどうだった?」と聞きたくなる気持ちは自然なものですが、すぐには答えられないこともあります。「話したくなったら聞かせてね」と伝えて、お子さまのタイミングを待ってみてください。

気持ちに名前をつける手伝いをする

お子さまの様子を見て、「今日は疲れた顔をしているね」「それは、びっくりしたのかもしれないね」「悔しかったのかな」と、気持ちに名前をつけて言葉にしてみてください。自分の中で起きていることに名前がつくと、少しずつ「これは疲れているんだ」と気づけるようになっていきます。

ただし、「今どんな気持ち?」と答えを求めすぎると、かえって負担になることがあります。言い当てることよりも、「そう見えるよ」と伝えて、違っていたら本人が直せるくらいの軽さがちょうどよいかもしれません。

研究

カナダの8〜12歳の自閉スペクトラム症のある子ども68名を対象にした研究(Weiss et al., 2018)では、自分や相手の気持ちに気づいて名前をつけることから始める、保護者も同席するプログラムを10回行いました。その結果、気持ちを整える力や、心や行動の困りごとに改善が見られました。

注記

これは専門職が行うプログラム全体の結果で、家庭で気持ちに名前をつけることだけの効果を確かめたものではありません。

宿題は「始め方」と「量」を工夫する

宿題が進まないときは、最初の1問だけ一緒に解く、5分だけやってみる、といった小さな始め方を試してみてください。それでも難しい日が続くようであれば、学校の先生に量や出し方を相談することも一つの方法です。

「なぜ?」を一緒にほどく

お子さまが落ち着いているときに、学校で戸惑った場面を話してくれたら、「それは、こういう意味だったのかもしれないね」と一緒に整理してみてください。分からないまま合わせていた場面が少しずつ減ると、学校で使う力も減っていきます。

学校と、家での様子を共有する

学校では、家での疲れは見えにくいものです。「学校ではがんばれているようですが、家ではこんな様子です」と先生に伝えておくと、学校での負担を考えてもらうきっかけになります。

叱ってしまったときは

疲れているお子さまと向き合う保護者の方も、また疲れています。叱ってしまう日があっても、ご自分を責めすぎる必要はありません。落ち着いたあとで「さっきは言いすぎたね。疲れていたんだよね」と伝えるだけでも、家が安心できる場所であることは、お子さまに伝わります。

ほかの可能性も考えておく

家での疲れの背景は、カモフラージュだけとは限りません。睡眠が足りていない、体調がすぐれない、注意を保つことに特に疲れやすい(ADHDの特性:気が散りやすい、集中を続けにくい)、勉強のつまずきがある、友だち関係で悩みを抱えている、などが関わっていることもあります。

一つの理由に決めつけず、いくつかの可能性を並べながら見ていくことが大切です。

観察してみるとよいこと

ご家庭で1〜2週間、次のようなことを記録してみると、傾向が見えてくることがあります。

  • 帰宅してから、落ち着くまでにどのくらい時間がかかるか
  • 曜日や時間割、行事によって、疲れ方に違いはあるか
  • 特に疲れていた日に、学校で何があったか(本人が話してくれる範囲で)
  • 宿題に取りかかれた日は、その前にどう過ごしていたか
  • 疲れや嫌だったことを、言葉にできた日とできなかった日があるか
  • 休日や長期休みの様子と、学校がある日の様子の違い
  • 先生から聞く学校での様子と、家での様子の違い

「学校では大丈夫なのに、家ではできない」という姿は、見かたを変えると、学校でそれだけがんばっているというサインかもしれません。その違いに目を向けることが、関わり方のヒントになります。

参考文献

  • Hull, L., Petrides, K.V., Allison, C., Smith, P., Baron-Cohen, S., Lai, M.C., & Mandy, W. (2017). "Putting on my best normal": Social camouflaging in adults with autism spectrum conditions. Journal of Autism and Developmental Disorders, 47(8), 2519-2534.
  • Hull, L., Mandy, W., Lai, M.C., Baron-Cohen, S., Allison, C., Smith, P., & Petrides, K.V. (2019). Development and validation of the Camouflaging Autistic Traits Questionnaire (CAT-Q). Journal of Autism and Developmental Disorders, 49(3), 819-833.
  • Cook, J., Hull, L., Crane, L., & Mandy, W. (2021). Camouflaging in autism: A systematic review. Clinical Psychology Review, 89, 102080.
  • Dean, M., Harwood, R., & Kasari, C. (2017). The art of camouflage: Gender differences in the social behaviors of girls and boys with autism spectrum disorder. Autism, 21(6), 678-689.
  • Wood-Downie, H., Wong, B., Kovshoff, H., Mandy, W., Hull, L., & Hadwin, J.A. (2021). Sex/gender differences in camouflaging in children and adolescents with autism. Journal of Autism and Developmental Disorders, 51(4), 1353-1364.
  • Halsall, J., Clarke, C., & Crane, L. (2021). "Camouflaging" by adolescent autistic girls who attend both mainstream and specialist resource classes: Perspectives of girls, their mothers and their educators. Autism, 25(7), 2074-2086.
  • Mullally, S.L., Wood, A.E., Edwards, C.C., Connolly, S.E., Constable, H., Watson, S., Rodgers, J., Rose, K., & King, N. (2026). Growing-up autistic: Sharing autistic children's experiences and insights. Autism, 30(5), 1222-1241.
  • Raymaker, D.M., Teo, A.R., Steckler, N.A., et al. (2020). "Having all of your internal resources exhausted beyond measure and being left with no clean-up crew": Defining autistic burnout. Autism in Adulthood, 2(2), 132-143.
  • Kinnaird, E., Stewart, C., & Tchanturia, K. (2019). Investigating alexithymia in autism: A systematic review and meta-analysis. European Psychiatry, 55, 80-89.
  • Griffin, C., Lombardo, M.V., & Auyeung, B. (2016). Alexithymia in children with and without autism spectrum disorders. Autism Research, 9(7), 773-780.
  • Weiss, J.A., Thomson, K., Burnham Riosa, P., et al. (2018). A randomized waitlist-controlled trial of cognitive behavior therapy to improve emotion regulation in children with autism. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 59(11), 1180-1191.
  • 平岡優実・山根隆宏(2025)「自閉スペクトラム症者のカモフラージュを引き起こす要因とその影響における心理社会的側面からの文献的検討」『神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要』19(1)、59-70頁
こども訪問看護ステーションJuno
このコラムは、訪問看護の現場での経験・臨床データ蓄積と、学術文献をもとに作成しています。
記載内容は一般的な情報であり、個々のお子さまへの対応を示すものではありません。
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