「興味が広がらない」と感じるとき
こんなこと、ありませんか
「好きなものには何時間でも向き合うのに、それ以外には見向きもしない」
「電車の話しかしない。他の話題を振っても戻ってしまう」
「やめさせようとすると激しく抵抗する」
「このまま興味が広がらないのではないか」
お子さまの興味が特定のものに限られていて、他の活動に目が向かない。そのことを心配されているご家庭は、少なくありません。
「好きなことがあるのはいいこと」と言われても、生活が回らなくなるほどとなると、素直にそう思えないこともあるかと思います。
こんな研究があります
自閉スペクトラム症(ASD)のあるお子さまに見られる強い興味関心は、長く「強迫的興味」「執着」といった言葉で、病的な行動として捉えられてきました。
しかし近年は「特別な興味(special interests)」という、より中立的な言葉で扱われるようになっています。
東京学芸大学の藤野博氏による研究レビュー(2021)では、これまでの研究がどのような知見を示してきたかが整理されています。そのなかに、保護者の実感と少し違う結果がいくつか報告されています。
1つのことに固定されているとは限らない
6歳から17歳のASD児を対象とした調査では、70%が「普通ではない」と評価された興味を少なくとも1つ持っていました。また、全体の約7割は2つ以上の特別な興味を持っており、1つのトピックに固定されてはいませんでした。(Turner-Brown et al., 2011)
「限定されていて柔軟性がない」という、それまでの見方と食い違う結果でした。
年齢とともに、範囲が広がる傾向がある
10代、20代、40代を対象とした複数の調査を並べると、年齢を増すにつれて興味の範囲が拡大していく傾向もうかがえる、と藤野氏は述べています。
今の状態が、そのまま固定されるとは限らないということです。
「何に興味を持つか」より「他を妨げているか」
これが、支援を考えるうえで最も重要な点かもしれません。
Klinらの研究(2007)では、興味を対象(話題)ではなくその性質によって分類するとともに、その興味が他の活動をどれだけ妨げているか──「干渉(interference)」の程度も評価されました。そして、干渉の程度が大きかった子どもほど、コミュニケーションや社会的適応の評価が低い傾向が示されました。
興味が強いこと自体ではなく、それによって他の時間が削られていることのほうが、適応と関係していたということです。
これらは、いずれも集団を対象とした調査の結果です。お子さま一人ひとりに、そのまま当てはまるわけではありません。また、「干渉が大きいと適応が低い」という関連が示されたことと、「干渉を減らせば適応が上がる」ということは、同じではありません。
ただ、「好きなものが偏っていること」と「それが生活を妨げていること」を分けて考える視点は、ご家庭での見かたを整理するうえで役に立つように思います。
これを、家庭での場面に置き換えると
「興味が広がらない」と感じるとき、実際に困っているのは何でしょうか。いくつかに分けてみます。
- 好きなもの以外に、まったく反応しない
- 好きなものに没頭して、食事や入浴が進まない
- やめさせようとすると激しく抵抗する
- 会話が好きなものの話題に戻ってしまう
- 特に困ってはいないが、将来が心配
最後の「特に困ってはいない」場合、研究の知見からは、今すぐ手を打つ必要はないかもしれません。
年齢とともに範囲が広がる傾向もうかがえますし、没頭できるものがあること自体は、内発的な動機づけによる学習を促し、QOL(生活の質)や精神的健康を高める可能性も指摘されています。
一方、それ以外は「干渉」が起きている状態です。ここは、見ていく必要があります。
「干渉」を測る目で見ると
Klinらの研究では、保護者に対して、子どもの自由な時間のうちどのくらいを興味の対象に費やしているか、家族や仲間との交流のなかでその話題にどのくらい時間が使われているかが尋ねられました。「時々(時間の25%未満)」「かなり(25%〜75%)」「ほとんどいつも(75%以上)」の3段階で評価されています。
ご家庭でも、同じ目で見てみることができます。
- 一日のうち、どのくらいの時間か
- 食事や睡眠は確保できているか
- 他のことに誘ったとき、応じられる日もあるか
「好きなものがある」ことと、「それ以外の時間が確保できているか」は、別の問いです。
見方が変わると、対応も変わります
藤野氏の論文では、本田秀夫氏(2018)の「選好性」という考え方が紹介されています。
自閉スペクトラムの特性を、機能の欠損として捉えるのではなく、「〜よりも〜を優先する」という選好性の偏りとして捉える、という見方です。
できる・できないではなく、優先順位の問題だということです。
この違いは、対応を変えます
「できない」と捉えると、他のことに興味を持てるように訓練する、好きなものを制限して他に向かわせる、という発想になります。
「優先している」と捉えると、なぜそれが優先されるのかを考える、他のことが優先されやすい条件を整える、という発想になります。
実際、前者のアプローチはうまくいかないことが多いと言われます。興味の対象を取り上げても、他に向かうとは限らないためです。
Klinらの研究では、特別な興味が複雑な社会を理解し、不安を和らげる働きを持つ可能性も指摘されています。当事者であるルーク・ジャクソン氏の著書にも、「この世界は不規則なことでいっぱいで、混乱してくる。集めたものを整理すると、その混乱した気持ちがふりはらえる」という趣旨の記述があります。
つまり、その興味が、不安への対処になっていることがあります。取り上げれば、不安だけが残ることになります。
背景によって、入口が変わります
同じ「他のことに目が向かない」でも、背景はさまざまです。
不安への対処になっている場合
取り上げるのではなく、他の安心材料を増やすことから始めます。
切り替えの難しさが主な場合
やめさせ方ではなく、見通しの立て方を工夫します。終わりの予告、タイマー、次の活動を先に示すといった方法です。
他の活動の敷居が高い場合
好きなものを入口にして、隣接する活動に広げていきます。
疲労や感覚の負担が背景にある場合
他のことに向かう余力がない状態かもしれません。まず生活リズムや環境を整えることから始めます。
どれが主な背景かによって、合いやすい関わり方は変わります。
観察してみるとよいこと
ご家庭で1〜2週間、次のようなことを記録してみると、傾向が見えてくることがあります。
- 興味の対象に向かう時間帯(偏りはあるか)
- 1日のうち、おおよそどのくらいの時間か
- 他のことに誘ったとき、応じられた日と応じられなかった日
- 応じられた日は、その前に何があったか(睡眠、疲労、予定の変化など)
- 中断を求めたときの反応(予告があった場合となかった場合で違いはあるか)
「いつも同じ」に見えていたことが、記録してみると日によって違う、ということはよくあります。
その違いが、何に左右されているのか。そこに、関わり方のヒントがあることがあります。
参考文献
- 藤野博(2021)「自閉スペクトラム症における特別な興味 ── 研究の動向と展望」『東京学芸大学紀要 総合教育科学系』第72集、403-410頁 http://hdl.handle.net/2309/166837
- Klin, A., Danovitch, J.D., Merz, A.B., & Volkmar, F.R. (2007). Circumscribed interests in higher functioning individuals with autism spectrum disorders. Research & Practice for Persons with Severe Disabilities, 32, 89-100.
- Turner-Brown, L.M., Lam, K.S.L., Holtzclaw, T.N., Dichter, G.S., & Bodfish, J.W. (2011). Phenomenology and measurement of circumscribed interests in autism spectrum disorders. Autism, 15, 437-456.
- 本田秀夫(2018)『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』SBクリエイティブ